奈良総合法律事務所

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木内道祥先生 古稀・最高裁判事退官記念論文集出版記念パーティー

2019.07.30トピックス

2018年4月 弁護士内橋裕和

木内道祥先生の表題のパーティーに行って来ました。木内先生には、松原脩雄弁護士(現在飛鳥京法律事務所)と2人で即独した当時、解らないことなどをよくお聞きし、親切に教えていただいた大恩人です。

木内道祥先生 古稀・最高裁判事退官記念論文集出版記念パーティー祝い表紙

ところで、木内先生は、最高裁判事として多くの重要な判決・決定に関与されましたが、夫婦別姓訴訟とNHK受信料訴訟についての木内先生の最高裁での意見は注目されました。 以下、簡単に紹介します(詳細は最高裁のウエブサイト等で御覧下さい)。

1.夫婦別姓を認めない民法750条の規定について

2015年12月16日、最高裁は「夫婦別姓の制度は、我が国の社会に定着してきたもので、家族の呼称として意義があり、その呼称を一つにするのは合理性がある」などとして、憲法に違反しないという判断を初めて示した(15人の裁判官のうち10人が合憲とし、5人が違憲という意見を表明した)。これに対し木内先生は、「本件規定は、婚姻の際に、例外なく、夫婦の片方が従来の氏を維持し、片方が従来の氏を改めるとするものであり、これは、憲法24条1項にいう婚姻における夫婦の権利の平等を害するものである」として、民法750条が違憲であるとした。

また、多数意見は、夫婦同姓制度が合憲であることの根拠として、同じ姓を称することで家族の一員であることを実感できるという意義をあげている。この点について、木内先生は「私は異なる意見を持つ」として、「家族の中での一員であることの実感、夫婦親子であることの実感は、同氏であることによって生まれているのだろうか。実感のために同氏が必要だろうかと改めて考える必要がある。少なくとも、同氏でないと夫婦親子であることの実感が生まれないとはいえない」、「同氏であることは夫婦の証明にはならないし親子の証明にもならない。夫婦であること、親子であることを示すといっても、第三者がそうではないか、そうかもしれないと受け止める程度にすぎない」と、多数意見の考え方に疑問を呈している。

なお、最高裁の多数意見は、夫婦別姓を認めていない民法750条を「合憲」と判断したものの、選択的夫婦別姓の制度について「合理性がないと断ずるものではない」と指摘。「この種の制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないというべきである」と記し、夫婦別姓を認めるべきかどうかは国会での議論に委ねられるという見解を示した。

2.NHK受信料訴訟において

平成29年12月6日最高裁大法廷は、「放送法64条1項は、受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であり、NHKからの受信契約の申込みに対して受信設備設置者が承諾をしない場合には、NHKがその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって受信契約が成立すると解するのが相当である」と判決した。これに対し、木内先生は「NHKからの受信契約の申込みに対して、受信設備設置者が承諾をしない場合には、
 ①受信契約について、承諾の意思表示を命じる判決は下せない。
 ②NHKがその者に対して不法行為に基づく損害賠償または不当利得返還請求をすることが認められる。
(理由)

①日本放送協会放送受信規約は、受信機の設置の日に成立するものとしている(規約4)、しかし、意思表示を命じる判決による契約は、判決確定時に成立する(民執174Ⅰ)と規定しているので、放送受信規約どおりの契約成立はあり得ない。

②放送受信規約では世帯ごとに受信契約が締結される。しかし、夫婦と子の世帯で、夫婦が1台、子が1台受信機を設置した場合、誰との間に契約が成立するのか確定出来ない。夫婦と子で設置した受信設備の種類が違う場合、契約内容も特定出来ない。

③判決確定までに受信設備を廃止して届出をした場合、判決確定時には承諾を命ずることができなくなり、訴訟は無意味となる」との少数意見を表明された。

木内先生が最高裁での経験を生かしていただき、今後弁護士としてまた学者として益々御活躍されることを祈念しています。